キングスマンに習うスーツの着こなし
スーツスタイルがかっこいい映画といえば数多くありますが、近年人気を博した映画といえば「キングスマン」が挙げられます。
生まれた環境に恵まれなかったと語るエグジー(演:タロン・エガートン)が表の顔が仕立て屋という異色のエージェント、ハリー(演:コリン・ファース)から英国紳士になるためのマナーを学んでいくストーリーです。
劇中でハリーは仕立てられたスーツが欠かせないと語ります。
今回はそんな紳士たちのスーツスタイルを解説していきます。
役者別の劇中でのスーツの着こなし解説
コリン・ファース(ハリー)のスーツ
一人目の紹介はコリン・ファースから。
シンプルな6×2のダブルブレストのスーツを着こなしています。
グレーの生地にストライプやグレンプレイドなどクラシックで伝統的な柄の生地を使ったスーツスタイルです。
ダブルのスーツと聞くとゆったりとしたスーツを思い浮かべる人が多いと思います。
「キングスマン」の着こなしはそんなイメージを払拭するかのようなスタイリッシュさを持ち合わせています。
ハリーのスーツスタイルはメリハリがしっかりとしたスタイルです。注目したいのがボタンを留めている箇所。
シワが入るほどに絞り込まれています。
ウエストの細い部分を強調しつつより肉体がたくましく感じられます。
ウエストが絞り込まれていることによってジャケットは砂時計のようなシルエットに。
その他にも肩周りとお尻周りも英国的なスーツのディティールが取り入れられています。
肩はビルドアップショルダー、お尻周りはサイドベンツです。
ビルドアップショルダーは立体的な肩周りを構築し、サイドベンツによって絞り込まれたウエストからお尻周りに向けて広がっていきます。
体に沿うと言うよりは鎧を纏うかのようなサイジングが特徴的です。
体型に合わせてパットの厚さを調整しビルドアップショルダーによって作られる構築的な肩周り、ゆとりをもってよりたくましく見せる胸周り、きつく絞り込まれたウエストからお尻に向けてフレアして広がっていくシルエットがイギリス的なスーツと言えます。
着用者の体型に左右されにくいのも一つの特徴的です。
胸筋やお尻が鍛え上げられたものでなくてもスーツ自体がきれいな形を作ってくれます。
続いてパンツについて。
スーツ全体の印象を決める上で重要なのがパンツです。丈と細さに注目してください。
第一に丈です。裾がしっかりと靴の上に乗りたるみができるようになっています。
歩くと裾部分が上下に動いたりしますがその中でもソックスがあまり見えないようにしています。
次に細さですが、ハリーはエージェントであり時には敵と戦うこともあるので適度に細いシルエットとなっています。
しかし、細すぎることなくゆとりがあります。スマートでありながら優雅さを感じさせる遊び・余裕があります。
また足元から素肌が見えることは絶対にNGです。
丈の短いパンツにローファー等を合わせるコーディネートは軽やかさを感じさせ素敵ですが、それは伊達男であって紳士ではないです。
先述の通り、パンツの丈はやや長めの丈に。
動かず立っている時には靴とパンツの間から靴下が見えないようにします。大股で歩くときに(大股で歩くほうが堂々と見えることは間違いない)靴とパンツの間から黒やグレーのソックスが覗くようなバランスで整えます。
キングスマンではダブルのスーツがよく着用されていたという点に注目するとジャケットばかりに目が行きがちですが、キングスマンを現代的でスタイリッシュに感じさせているはこの細身のスラックスであることは忘れてはなりません。
まとめると
- グレーのダブルブレストのスーツ
- ストライプやグレンプレイドなどのクラシカルな柄
- ビルドアップショルダーやサイドベンツ、絞り込まれたウエストによってメリハリの効いたシルエット
- 動くことを考え細身でありながらゆとりもあるパンツ
- 素肌が見えるのはあってはならない
少し堅苦しいくらいの作りにします。
グレーの印象もあってより落ち着いた大人っぽい印象にすることができます。
タロン・エガートン(エグジー)のスーツ
次はタロン・エガートンのスーツスタイルについて解説します。
基本的な着こなしはコリン・ファースと同様にメリハリの効いたダブルのスーツです。
違いとしては主に使う色が異なります。
グレーのコリン・ファースに対してタロン・エガートンはネイビーを主に着用します。
これは勝手な推測ですがタロン・エガートンとコリン・ファースの対比だと考えます
一概には言えないですがグレーよりネイビーの方がフレッシュさを感じさせる分若さを表現できます。
暗いトーンより明るいトーンのネイビーであればより若々しさを感じさせます。
あくまでネイビーとグレーを対比した場合に言えることなのでネイビーも大人っぽい印象を与える色であることに変わりはありません。
スーツの形・デザインに関してはコリン・ファースが着用しているものと大きく変わりません。キングスマンのエージェントとして決まっている形なのでしょう。
しかし折角なのでタロン・エガートンの他の服装について着目しましょう。
シリーズ2作目のオレンジのジャケットが記憶に残っている人も多いはずです。
王女である彼女とその両親との会食で着用していたジャケットです。
目を引くオレンジのジャケットに黒の拝絹仕様のディナージャケット。
下衿(ラペル)の部分が別の生地を使用しているのが特徴的です。
ディナージャケットと聞くとあまり聞き馴染みがないかもしれません。
タキシードの方が馴染みがあるでしょうか。アメリカではタキシードと呼ぶのに対してイギリスではディナージャケットと呼びます。
今回はイギリスの呼び方に習いましょう。キングスマンはイギリスが舞台ですから。
デザインに着目すると一般的にイメージするタキシード(つまりアメリカ的な)との違いがいくつか見られます。
まずはラペルの形がピークドラペルです。
ダブルのジャケットと同じ衿の形です。ピークドラペルはフォーマルな衿型になるのでディナージャケットに使われます。
またシャツはウィングカラーではなくレギュラーカラーです。
ウィングカラーのシャツの方がフォーマルなものとしてイメージしやすいことと思います。しかし、襟の開きが狭いレギュラーカラーでも問題なく合います。
生地はオレンジのベロア生地です。独特な生地の光沢や風合いがあり、高級感があります。
オレンジであることもすごく目を引きます。
フロントボタンや袖口のボタンもラペル同様に黒の生地でくるんだボタンを使っています。
着丈はやや短めです。シャツはダブルカフスが使われており、ジャケットの袖もそれに合わせて下に落ちないようになっています。
胸ポケットにはTVフォールドという挿し方でポケットチーフを入れており、フォーマル感が強くなっています。
キングスマンの映画全体に言えることですが英国的なデザインなどをこれでもかと誇張しています。
ドレスコードのある食事やパーティーに参加する際には参考になる着こなしです。
キングスマンに習うならディナージャケットはピークドラペルのものを用意しましょう。
マーク・ストロング(マーリン)のスーツ
キングスマンの劇中では縁の下の力持ち的役割のマーリン。
ハリーやエグジーのように現場で活動するエージェントではないのでダブルのスーツではなく、シングルのスーツやタイドアップしたシャツの上にセーターを着たり、ビジネスシーンでも取り入れやすい着こなしをしています。
エージェントをサポートすることの多いマーリンですが、敵地に乗り込む際にはダブルのスーツを着用していました。
ダブルのスーツがキングスマンのエージェントのアイコンであることがよくわかるシーンでした。
着こなしとしてはあまり色の数を使わずとてもシンプルです。
セーターも温かみを感じさせ人柄の良さが伝わります。
よくイギリスの着こなしはイタリアと比較して地味であると言われますが、派手さはなくとも品の良さなどが伝わりやすいです。
セーターを合わせる時にはネクタイの色に合わせたり、ネイビーやグレーを使うと落ち着きのある着こなしになります。
ウォームビズなどかしこまりすぎないビジネスシーンや少しきちっとした場面(例えば恋人の実家に遊びに行くなど)に適した着こなしです。
その他にも非常にイギリス的とも言える着こなしがあります。
画像では完全に判別はできませんがコートの着丈的にスーツのジャケットは着ていないと思います。
スーツに合わせるコートと言えばチェスターフィールドコートやトレンチコート、ステンカラーコートなどが代表的です。いわゆるきれいめなコートです。
しかしここでマーク・ストロングが羽織っているのは迷彩柄やカジュアルなフラップ付きのポケット、衿の切り返しなどカジュアルなディティールがあります。これをシャツにネクタイ、スラックスで足元はフォーマルな革靴といった着こなしです。
キルティングジャケットやモッズコート(M51)など先述したチェスターフィールドコートなどと比べるとカジュアルなコートを合わせるのはイギリス的と言えます。
このような着こなしが発展したのは雨の多いイギリスの気候やモッズ文化のような一張羅を汚さないようにという実用面からです(モッズは軍の卸品を安く調達していました)。
こういった背景を感じながらイギリス的な着こなしを楽しむは非常におすすめです。
ソフィー・クックソン(ロキシー)の着こなし
ロキシーはエグジーと同様にキングスマンの訓練を受ける候補生です。労働階級のエグジーとは違い上流階級の出身です。
前列右から2番目に立っている女性がソフィー・クックソン演じるロキシーです。ロキシーに限らずですが一番右のエグジーと他の候補性との対比があります。
エグジー以外の候補生がシャツとジャケットを着ているのに対してエグジーはスポーティーなシャツにダウンベストという着こなしです。
さて、少し脱線しましたがこのシーンでソフィー・クックソンが着用しているのは3つボタンのカントリーテイストのジャケットです。レザーボタンがより一層カントリーテイストを強めてくれます。
インナーにはシャツを合わせています。薄いブルー系のものをクレリック仕様、襟の形はラウンドカラーで柔らかさを感じさせます。
使っているアイテムはツイードジャケットにシャツ、デニムと男性の着こなしでも見られるアイテムですが、ジャケットの着丈を短くしたり、タイトなデニムを合わせることで少し女性的な着こなしです。
こちらはキングスマンのエージェントになったあとのロキシーです。ハリーやエグジー同様にダブルのスーツを着用しています。特筆すべき箇所は特にはありませんが、しっかりと仕立てられたものを着用しています。
女性でもイギリス系のしっかり目の生地のスーツを着る時はこのソフィー・クックソンのように思い切って男性と同じようなバランスで着るのがおすすめです。
スーツスタイルを際立てる小物
スーツスタイルはスーツのみで完成せずシャツやネクタイ、靴も合わせて完成します。キングスマン的な紳士の着こなしをするために欠かせないアイテムを紹介していきます。
ブローグではなくオックスフォードとは
劇中にて「ブローグではなくオックスフォード」という暗号が使われます。靴が好きな方なら一瞬でその意味がわかることでしょう。
紳士になるためには必要な知識なので基本の解説をします。
黒の内羽根ストレートチップが暗号のオックスフォードです。日本では冠婚葬祭のどの場面でも履ける靴として親しまれています。
一方でブローグはどんな靴を指すかというと
2つの靴で違いがわかりますか。オックスフォードには飾り穴がなく、ブローグには飾り穴があります。
装飾性があるのがブローグで、シンプルなのがオックスフォードです。ブローグは華やかさは出ますがオックスフォードは一歩引いたような佇まいになります。
あまりに高価なものを買う必要はなく、脱ぐ時にはしっかりと紐を緩めてかかと部分を手で持って脱ぐ。履くときには靴べらを使って足を入れて紐を締める。やや面倒ではありますが重要で欠かしてはならない所作です。
また長年使い込まれた靴はそれだけで紳士の足元を支えてくれます。自分でケアするのもいいですし、プロにおまかせするのもいいです。
また靴の色は黒一択です。足元に最も暗い色を持ってくることで全体的に重厚感、安定感を出すことが必要です。
繰り返しになりますが高価なものである必要はありません。シンプルな黒のストレートチップをケアしながら履き続けるようにしましょう
装飾と機能性が考えられたシャツ
スーツの紹介の中でも何度か触れましたが上質なシャツも欠かせません。
注目頂きたいのはその袖口です。
一般的なカフスよりもボリュームのあるダブルカフスです。カフリンクスで留めることで装飾性が出ます。やりすぎないようにしつつ、装飾する箇所はしっかりと装飾します。メリハリのある着こなしです。
その他注目頂きたいのは激しいアクションでのワンカットです。スーツと比べてシャツの袖口があまり動いていないのがわかります。
これはシャツの袖の長さ(シャツでは肩部分も含めた裄丈の表現が一般的)が長く、動く際のゆとりがしっかりとあるからです。
手をまっすぐ下ろしたときにはカフス付近がダボつくのでやや野暮ったい印象を持つかもしれませんが、動いた際にどう見えるのかまで気を配った結果、ゆとり量をとったサイズ感になるのです。
画像ではボタンを使ったカフリンクスです。個性をさりげなく出すことができる場所でもあります。
紳士の象徴のネクタイ
堅苦しいと感じることもあるネクタイもスーツの装いに欠かせません。特に人と会うときには。
キングスマンのネクタイですが、みな同じネクタイをしています。締めているのはいわゆるレジメンタルストライプのネクタイです。レジメンタル、つまり「連隊の」といった意味合いがあり、キングスマンが組織であり、エグジーやハリーがそこに属するエージェントであることを示しています。
ネクタイは柄や色に拘るより打ち込みのしっかりとした生地を使ったものを選びます。そういったネクタイは締めやすく、ディンプルと言われる窪みがきれいにつくりやすいです。
まずは使用シーンを選ばないシンプルなものを一本選ぶといいです。重厚なシルクが胸元を控えめでありながらより豊かなものにします。
エグジーとハリーはそれぞれネイビーとグレーのスーツを着用していますが、同じネクタイを締めています。ビジネスシーンでよく着るネイビーとグレーそれぞれどちらにも合わせやすいもネイビーのネクタイがおすすめな理由です。
キングスマンのような着こなしをするのであれば小物にこそ気を配る必要があります。
キングスマンに習うスーツの着こなしをするには
キングスマンのスーツ、靴、シャツ、ネクタイについて解説してきました。
では、この着こなしを実践するためにはどのようにするべきか。
スーツはオーダーするのが吉
生地は高価なものである必要はありませんが、予算の許す範囲でクラシカルかつ打ち込みのしっかりとした生地を選ぶようにします。クラシカルな生地とは、グレーもしくはネイビーの色で、無地あるいはストライプやグレンプレイドといった柄のものです。
その上でメリハリのあるシルエットを作り(ボタンを留める位置を調整できるフルオーダー、イージーオーダーが尚よい)ソックスが見えないような長さのトラウザーズにします。
シャツはサイズがあるか否か
キングスマンのような着こなしをするにはスーツ同様にシャツもサイズが重要です。加えてダブルカフスであれば尚いいです。
袖の長さが足りていなかったり、首元がブカブカであるとネクタイを締めた際にシワができてしまいます。基本に忠実なサイズは必ず抑えるように。→シャツのサイズ選びについて
シャツはスーツや靴、ネクタイと比べると消耗するものであるので自分にとって高価過ぎるものは選ばない方がいいです。しかし、サイズに関しては妥協をあまりしないように。
靴は長く履けるつくりのものを
靴はできるだけ長く履けるつくりのものを選ぶようにします。3,000円程度からでも本革の靴は買えますが、可能であれば2〜3万円からある靴底が交換できるようなものを。
脱ぎ履きではかかとを持って脱ぐ、紐もしっかりと緩めて締める。そして、栄養補給などのケアをします。3年後にはハリーやエグジーの足元にあるような紳士的な靴になっているはずです。
ネクタイはシンプルな一本から
ネクタイはシンプルなネイビーのソリッドタイから。上質なシルクを存分に使った重厚なものを。
シンプルなネクタイをシンプルにプレーンノットで。自分のサイズに合わせたスーツとシャツと合わせて構成されるVゾーンはそれだけでいいのです。
これらのアイテムで優先順位をつけるなら
キングスマンのような着こなしをするためにスーツ、シャツ、靴、ネクタイを揃える際一度にすべて揃えることができればいいでしょうが、金銭的にも負担がかかります。
では、揃えていくべきものを優先順位をつけてしめます。
1.靴
第一に揃えるべきは靴です。靴は流行り廃りの影響も受けにくく、普遍的なデザインでしっかりとケアをすれば10年使えるものです。
体型に変化があっても影響を受けにくく長い間使えることもあり、最初にお金をかけるべきものです。
2.スーツ
次にスーツを。高価な生地である必要はありません。体に合わせたサイズで長く使えるものを。
キングスマンのような着こなしであればメリハリのあるシルエットを。靴と違い体型の変化がありうるので10年体型を変えずに着続けることが求められます。
3.ネクタイ
ネクタイも体型の変化を受けにくく長期に渡って使うことができるので上質なものを使う方がいいです。
しかし、靴と比べると消耗しやすいく印象を大きく左右するものなので本数がある程度必要なのも現実です。少しずつ充実させていくのがいいです。
4.シャツ
シャツは肌に近い部分であり、消耗の早いものです。特に襟や袖口の汚れに悩まされる人も多いと思います。
オーダーで体型にバッチリと合わせることや上質な生地の質感は何者にも代えがたい体験をもたらしますが、他のものと比べると寿命が短いということでこの優先順位にしています。
流行り廃りに影響されずキングスマンのような着こなしをするのはいかがでしょうか。
オーダースーツ専門店
SARTO KLEIS
髙橋