ブリティッシュスーツをオーダーする方法とは

トレンドの流れもありブリティッシュ(イギリス)スーツを検討する方も多いと思います。
湿度の高い気候でもヘタレ無い生地をイメージするブリティッシュスーツ。厚めの生地や経横共に双糸で織られたタフな生地で仕立てられたスーツを連想する方も多いはず。
今回はブリティッシュスーツをオーダーする際のポイントを
ディティール・サイズ感
に注目して紐解いていきます。
- 「構築的」がキーワードのディティール
ジャケットは「受け継ぐ」に着目する
パンツは重厚感を持たせるようなイメージ - 「ゆとり・長く」のサイズ感
メリハリを重んじるジャケット
体をきれいに見せるシルエットのパンツ
「構築的」がキーワードのディティール
ブリティッシュスーツのキーワードは構築的。
ジャケットとパンツそれぞれブリティッシュスーツのディティールについてまとめていきます。
ジャケットのディティールとして着目したいのは以下の6点
- 肩周り
- フロントボタン
- 衿型
- 腰ポケット
- ベント
- 袖口
簡単に見ていきます。
パンツについて押さえておきたいのが3点
- タック
- 裾の仕上がり
- ベルトループ
ジャケットと比べると見るポイントが少ない分一つ一つが与える印象の度合いが大きいです。
ジャケットは「受け継ぐ」に着目する
タフな生地で作られるスーツは親子数代に渡って受け継がれることもあるそう。ディティールを見ていくと受け継ぐために考えられているものしばしば見受けられます。
代表的なディティール「ビルドアップショルダー」
ブリティッシュスーツの代表的なディティールとして最も知られているであろうビルドアップショルダー。
肩先にロープが入っているような作りになっているのでロープドショルダーとも呼ばれます。
肩パッドの是非については別のブログで詳しく書いていますのでそちらをご参照ください。
オーダーする際には着用する人の撫肩なのかいかり肩なのかふつうの肩なのかで入れる肩パッドの分量が変わります。首から肩にかけての傾斜があまりつかないようにします。
いかり肩の人はパッドは薄めでOKです。逆に入れすぎてしまうと常に肩に力が入った感じが強調されてしまいます。
撫肩の人はしっかりとパッドを入れるようにします。イメージとして自身の肩巾より少し広く見せるような感じでたくましい印象を与えるようにします。
肩周りはかなり印象を与えるディティールになるのでビルドアップショルダーにするだけでもブリティッシュスーツに近づきます。
デザインの花形「フロントボタン」
フロントボタンとするとややわかりにくいですね。
要はボタンが縦1列のシングルか2列並んだダブルかということです。
シングルでもダブルでもブリティッシュスーツにすることができます。それぞれ見ていきます。
最も見慣れたシングルブレスト
ボタンが縦一列に並んだシングルブレストは
- 3つボタン
- 3つボタン段返り
- 2つボタン
- 1つボタン
ボタンの位置のバランスによって変わるので一概には言えませんが、上の方がVゾーンが浅くかっちりした印象に。下の方がVゾーンが深くエレガントな印象になります。
段返りについてはラペルの返り位置でも印象が変わりますが今回は割愛します。
ブリティッシュと聞いてイメージするのはカチッとした印象の3つボタンですね。Vゾーンが浅くネクタイやシャツの見える面積が狭くなります。
おすすめとしては3つボタン段返りでラペルの返り位置が高くVゾーンを浅くすることができる上段返りのもの。上2つのボタンをとめる3つボタンは2020年ではやややりすぎに感じるので少しモダンに寄せつつカチッとした印象を残すことができる上段返りのものを。
タブカラーシャツやクレリックのシャツにペイズリー柄など遊びの効いたVゾーンを作ることがおすすめです。
重厚感たっぷりのダブルブレスト
次はボタンが2列に並んだダブルブレストのジャケット。
シングルブレストに比べて重厚感が増します。
男性的なたくましさや威厳、誠実な雰囲気を作りやすいです。落ち着いた雰囲気を持ち、クラシカルな面構えになります。
ダブルのデザインのバリエーションとしては、ボタンが6個ついているものか4個ついているものが主流になります。
ブリティッシュスーツを考えるならばボタンが6個ついているものを選びます。
一番下のボタンのみ留めるかそうでないかでVゾーンの広さが変わるのでよりVゾーンを狭くするようにボタンを留めます。
襟の開きの狭いレギュラーカラーのシャツなどをインナーに持ってくるとより英国的になります。あえて少し細めのネクタイを合わせるのもいいでしょう。
ジャケットの顔役「衿ラペル型」
衿(ラペル型)はノッチドラペルとピークドラペルがあります。
「どちらが必ずブリティッシュでどちらが必ずブリティッシュでない」ということはありませんが、ピークドラペルの方がブリティッシュな雰囲気を出すことができます。
フロントボタンでもまとめたようにブリティッシュスーツはカチッと印象になることが多いです。ノッチドラペルとピークドラペルを比較した際にはピークドラペルの方がカチッと印象が強いです。
着用するシーン、例えばビジネスシーンにおいて職場での服飾既定や社外の人の服装の傾向に合わせて裁量が高い場合はピークドラペルにするのがおすすめです。
また必ず必要ではないのですが衿ひげがついているものであればより本格的です。これは衿が擦り切れたとき用のものなので「受け継ぐ」ことも視野に入れたジャケットに見られていたディティールなので取り入れるのが良きです。
「腰ポケット」
腰ポケットは水平につけられているものと斜めにつけられているもの(スラントポケット)があり、下前(男性の場合右側・シングルブレストの場合ボタンが付いている方)にチェンジポケットがついているかのデザインが主になります。
結論としては水平かスラントポケットかはブリティッシュのスーツであるかどうかはあまり大きな問題ではありません。
チェンジポケットをつける方が良いです。オーダーの場合はオプションとして準備されていることが多いです。
機能的ではなくシルエットで判断「ベント」
オーダーで最も選ばれることが多いのがサイドベンツもしくはセンターベントです。
どちらがよりブリティッシュスーツに用いられているかというと「サイドベンツ」です。
このベントについてそれぞれ機能的な側面から出来上がったと言われていますがサイドベンツがよりブリティッシュな理由としては裾に向かって広がっていくフレアなシルエットを作ることができるからです。
後述しますがブリティッシュスーツはウエストをしっかりと絞りトラウザーズ(スラックス)にもゆとりを持たせます。そのためジャケットの裾にかけてフレアしていた方がきれいなつながりが生まれます。シェイプされたウエストがより強調されメリハリが生まれることも重要です。
切り込みのないノーベントも選択肢に入ります。喪服やタキシードなどにも取り入れられるディティールでフォーマルなものです。トラウザーズを少し細身のものにする場合にシルエットに着目するとおすすめです。
センターベントほどスッキリさせることなくディティール自体はカチッと雰囲気を作ります。
小さなこだわり自己満足の「袖口」
ジャケットの項目として最後に袖口について。
袖口は「仮切羽」あるいは「開き見せ」のものと「本切羽」あるいは「本開き」のものがあります。
前者は袖口のボタンホールが飾りで袖を開くことができないもの、後者はボタンを実際に外したりすることができるものです。
これは「仮切羽」のものにしましょう。
もし手を洗う際にボタンを外して袖を捲くりたいということであれば袖口から2つ目あるいは3つ目までを本切羽にして残りは仮切羽にしましょう。
本切羽にしない理由を本切羽のデメリットに着目して見ていきます。
穴を開ける本切羽のデメリット
当たり前なのですが本切羽はボタンを実際に通すために穴(ボタンホール)を開けます。
「受け継ぐ」に着目した時にこれでは袖丈の調整ができなくなってしまいます。仮に袖丈をボタン一個分(大抵14ミリか15ミリ)出してボタンの数を一個増やすといった場合には上手く調整ができますがそれ以外の調整ができません。
その点仮切羽であれば切羽の糸とボタンを外してしまえば袖丈の調整は容易です。袖口が擦り切れ補修でやや袖丈を短くするなどもできます。
時間の経過とともに必要に応じて袖丈を調整することを考えると仮切羽の方が良いです。
わざと外すことができる本切羽のメリット
次に本切羽のメリットについてですが手間がかけられている・ヌケ感を出すことができることです。
1つ目に手間がかけられていることについて。
仮切羽で袖口を仕上げるより本切羽の方が手間がかかります。オーダースーツの場合多くの店舗でオプション代がかかるのはそのためです。
手間がかかることとサイズの調整ができないことから既製のスーツでは本切羽のスーツはあまり見られませんでした(近年やや増えているように感じます)
そのため本切羽であることはオーダースーツであることのひとつの証として人気なのです。
次にヌケ感を出すことができることについてです。
これは袖のボタンをあえて1つ、2つなど外しておく着こなしです。本来全て留められているボタンをあえて外すことで着崩しヌケ感を出すことができます。
少しリラックスした着こなしなどにはとても良いのですが、ブリティッシュスーツではきっちりと着る方が望ましいです。
オーダーした証としてどうしても本切羽にしたいという方は折衷案として袖口からボタン2つあるいは3つまでを本切羽にして残りを仮切羽にするというものがあります。
これは受け継ぐことを考慮した際に大抵子供の方が腕が長いと考えられているからで袖口から一番遠いボタンが仮切羽ならボタンの数の増減なく袖丈を出すことができるからです。
袖ボタンの数について
袖ボタンの数は4つにしましょう。
並びと重ねがあるのですが並びで。
4つボタンの並びが一番カチッとした雰囲気を持つことと重ねボタンは職人の腕の見せあいが由来という説があり特にイタリアで良く見られるディティールになります。
ブリティッシュスーツをオーダーするのであれば4つボタンの並びで仮切羽・開き見せです。
ジャケットのディティールおさらい
ジャケットのディティールについておさらいします。
- 肩先・・・ビルドアップショルダー
- フロントボタン・・・上段返りの3つボタンもしくはダブルブレスト
- 衿型・・・ピークドラペル
- 腰ポケット・・・チェンジポケット付
- ベント・・・サイドベンツ(もしくはノーベント)
- 袖口・・・仮切羽の4つボタン並び
ジャケットにおいてこれらのポイントを抑えているとより英国的なスーツをオーダーすることができます。
かっちりした雰囲気を意識、「構築的」がキーワードです。
トラウザーズ(パンツ)はゆったり感を持たせる
次にトラウザーズ(パンツ・スラックス)についてです。2020年はクラシック回帰のトレンドの影響も受けやや太めのトラウザーズが以前と比べ増えました。
こちらも太めの要素など取り入れるとグッと英国的になります。太いのにはまだ抵抗があるという方は裾を少し細めにしておくなどしてスッキリ見せつつふともも周りにゆとりを取るなどしましょう。
ディティールについては
- タック
- 裾の仕上げ
- ベルトループ
これらについて見ていきます。
インタックの2タックがおすすめ‼
ブリティッシュスーツをオーダーする際にはインタックの2タックでオーダーしましょう。
タックとはトラウザーズの前方腰付近についているプリーツです。ややおじさん臭いと感じる方も多いと思います。
タックも種類があり、
- ノータック
- ワンタック
- ツータック
その他特殊なものもありますがこちらを押さえていれば問題ありません。ここにプリーツが外側を向いているか内側を向いているかでまたデザインが変わってきます。外側を向いているものをアウトタック(プリーツ)内側を向いているものをインタック(プリーツ)と言います。
インタックはイギリス的、アウトタックはイタリア的と言われています。日本ではアウトタックが主流で馴染み深いです。
タックの数が増えれば増えるほどお尻周りにゆとりが生まれます。おじさん臭いと言われる理由ですね。
インタックの方がアウトタックよりもお尻周りの膨らみを抑えることができることからもインタックがおすすめです。
シングルorダブル?裾の仕上げ
裾の仕上がりに関してはシングル・ダブルどちらでも構いません。
後述するサイズの方が重要になります。
一つしっかりと抑えたいのがダブルの裾にする場合は裾幅に合わせてダブルの巾を決めるようにします。
ただ薄手の生地の場合落ち感を出すためにダブルにした方が良いでしょう。
クラシックなのはベルトレス
ベルトループの有無でブリティッシュかどうか大きく変わることはないと言っていいでしょう。
ベルトループ有りかベルトレスかで比較すると当然ベルトレスの方がブリティッシュですが、機能面からベルトレスはやりすぎになることも懸念されます。
ベルトレスにする際も脇尾錠という腰の側面にサイズ調節可能な金具をつけるものとブレイシーズ(サスペンダー)で吊る場合があります。
イギリスに昔からあるという点からよりブリティッシュと言えますがそれ以上にクラシックな印象が強くなるでしょう。
ベルトレスかどうかはあまり気にする必要はありません。ただ、ベルトをシンプルな黒にすることがマストです。
タックにこだわると良い
トラウザーズのディティールとしてはタックにこだわるとブリティッシュスーツを作ることができます。
裾の仕上がりはそれ自体よりもサイズのバランスの方が重要です。
ベルトループの有無については、「ベルトループない=ブリティッシュ」ではなく「クラシック」になります。
お尻周りにゆとりを持たせるためにタック入り、インタックの2タックトラウザーズをお願いしましょう。
サルトクレイス谷町店にはブリティッシュスーツが好きな髙橋がいますのでブリティッシュスーツを検討している方はぜひご相談ください。
サルトクレイス谷町店 髙橋