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仕立て屋が想う『フルオーダースーツ』の定義

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今回はここ数年でお客様からの問い合わせが圧倒的に多かったフルオーダースーツについてお話しします。

この題材に関しまして何が難しいかというと、世代によってオーダースーツの認識に多少のズレがある事です。
令和も3年目となり、まさにオーダースーツ乱立時代です。

若い方でも「スーツを仕立てる」ということがそんなにめずらしくなくなってきました。

「フルオーダー」の解釈も千差万別です。(何が正解、不正解ということではありません)

様々な見方がある中で、改めてフルオーダースーツはどのようなものなのか。

どういった特徴やメリットがあるのか。スーツ屋の角度から記述したいと思います。

ひとつの考え方としてご参考くださいませ。

目次

フルオーダースーツとは

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画像引用元:pixabay

従来の「仕立て屋」と呼ばれる職人さんは型紙をおこし、生地のカッティング、仮縫い、中縫い、本縫いまで全ての工程を1人で行っておりました。

立体構造で温かみのあるスーツを仕上げるには何度も着せ付けを繰り返してよりお客様の体型に沿った仕上げを追求しないといけません。

手縫い工程が圧倒的に多い仕上がりですのでミシン縫いの直線的なスーツとは着心地や見た目も圧倒的に違いが出てきます。

やがて一連の作業を分業する事で納期と仕上がりの簡略化に成功し、日本でもヨーロッパのようにファミリー経営の仕立て屋さんが多かったと聞いております。

しかし米国の文化と技術力が流入し、先進国としてよりスピードと生産性の効率化を図るようになった日本のスーツはいつの日か質より量を優先せざる負えなくなりました。

オーダースーツに認識のズレが生じる原因はこういった背景が重なり本物を手に取る機会が少なくなった世代へと移り変わったのですね。

二極化された現在の日本でもフルオーダースーツを縫い上げる職人は減少傾向にありますが、最近は海外で修行を積んだ若い世代の職人は増えつつあります。

手縫いのスーツが良い、という事ではなく、手縫いであるべき縫製は手縫いの方が圧倒的に着心地を大きく左右します。

結論としましては、フルオーダースーツとは型紙起こし、生地のカッティング、仮縫い、中縫い、本縫いを経て直線縫い以外の8割以上は手縫い(ハンドソーン)から生まれる本物志向のスーツと言えます。

イージーオーダーと呼ばれるスーツとの違い

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イージーオーダー(日本だけの名称)とは、生地を選び採寸した後、洋服の元となる「型紙」の中から、自身の体型に最も近い型を選び、それをベースに、デザインや体型の補正を加えコンピューターに打ち込みスーツを仕立てあげます。

前肩、なで肩の「体型補正」は可能になりますが、仮縫いが無く1度の採寸でスピーディーに仕上げます。

1着丸縫いが出来なくても、型紙と数値の動きを理解できれば売り手側も一定の水準まではスムーズに仕事ができます。

一方でフルオーダーに関しては仮縫い、中縫いを緻密に行い最終の本縫いに入りますので、本当の意味でのお客様だけの1着が仕上がります。

1人で一連の作業を行うサルトリアもいれば、弟子を雇い分業する方もいらっしゃいます。

分業とは言え、生地の知識や型紙、縫製、副資材からすべての工程理解と技術力が試されますので、売り手側も一定の水準以上の腕が必要となります。

また仕上がった見た目も立体的に丸く、温かみのある表情になりますね。

着心地の「核」となる2つのポイント

スーツを仕立てる上で最も重要なポイントは着心地ではないでしょうか。

着用する毎に首に馴染み着ていて疲れない、芯材として使用される天然繊維の毛芯が体型に馴染み、見た目のシャープさの割に可動域が出るようになります。

その中でもフルオーダーにおいて着心地を左右する大きなポイントを2つご紹介致します。

袖付け

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フルオーダーの仕立ては、多少タイトに着ても動きやすく、とても着易いです。

中縫いと本縫いの工程において型紙と副資材の合わせ縫い、そして「いせ込み」という縫製技術が全てを語ります。

「いせ込み」とは肩線と袖付けで使われる技術で生地をアイロンで一気に凝縮し、長さの違うを箇所を無理に縫い合わせる技法になります。

肩線は前より後ろを長く、アームホール(袖ぐり)は身頃よりも袖の周りを長くしています。

そうする事で、肩は前に出るようになり、アームホールを小さく設計できるようになります。

アームホールが小さいということは手を動かしやすく、可動域を均一にします。

スーツを語る上でこの袖付けが一番難しく、職人の技術力が問われるので着心地が左右してしまいます。

アイロンワーク

アイロンワークとは平面の生地をアイロンを使って身体に合わせて立体的に仕上げる技術であり、手作業や感覚といった数値化出来ない職人技術になります。

一般的な生地は経糸と緯糸が90度に交わって織られますが、45度、つまり斜めに力と熱を加えれば縮率をあげます。

日本では「クセトリ」と呼ばれ、お客様の体型のクセに合わせて行う仕立て職人の奥義みたいなものですね。

熱温度と水の分量だけでなく、生地の特性も理解しないとなかなか取得できる事は困難であり、それだけ1着に対する熱量も変わってくるわけです。

ディテールで差をつける

フルオーダーだからと言ってもスーツの見た目の違いって結構見極めるのが難しいですよね。

シルエットが良かったり、サイズがピッタリ、身体に沿ってると言っただけではなく、そのように魅せるための視覚では分かり難い作業が重要な役割を担います。

ここではよく見ると繊細な日本職人の技術をご紹介致します。

手星(てぼし)のステッチ

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フルオーダースーツの星ぬきの糸は、主にシルク100%のため生地との馴染みが良くフルハンドメイドの運針の力により、ゆるく丁寧に糸を置いて、すくい上げます。

良いスーツの襟の端が綺麗に整っているのはこういった神経をすり減らす様な作業を経て成り立っております。

マシンメイドのステッチと比較すると、糸の太さを見れば、一目瞭然ではないでしょうか。

5年ほど前からナポリや香港では若い世代のお客様の方がこういったクラシックに興味を持ち、手星(てぼし)のハンドソーンを着ているようですね。

手閂(てかんぬき)

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ジャケットやパンツの脇ポケットなどの玉縁の端に施してあります、くるくると糸を巻き付けた縫いを「閂(かんぬき)」と言います。

随所のディテールを補強する意味合いをもつ仕様になりますね。

イージーオーダーまでのクオリティでは特殊ミシンで始末するのが一般的ですが、フルオーダーになると閂(かんぬき)も立体的な手縫いになります。

「ここまでして何か意味はあるのか、、拘りだすとキリがない、、」と思われるかと存じますが、皆様もパンツの後ろポケット脇が急な動作による圧力で破れた経験はお有りかと思います。

あの現象はタイトな数値で作ってしまった原因の他にも、硬いミシン糸でポケット脇を「閂止め(かんぬきどめ)」をしているので生地が裂けてしまったという事も言えます。

かぶせ襟(かぶせえり)

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上襟と下襟のつなぎ目のことを「ゴージ」と呼びますが、ここに繊細な隙間が空いているのがわかりますでしょうか。

このゴージは、既製品やミシンで縫ってあるものがほとんどになりますね。

この様に手縫いでまつられた縫製の襟をかぶせ襟と言います。

手縫いですとゴージの線が極めて細く、薄く、優しい雰囲気になります。ほんのり曲線がかかっているのも手縫いならではの仕上がりです。

このゴージの線の雰囲気が柔らかいと、服全体の印象がグッと柔らかくなり、首の付根だけでジャケットを羽織っている感覚になります。

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芯と表地をそれぞれ別に取り付ける方法で作りあげるこの技術も最高峰のフルオーダーならではのディテールになります。

サルトクレイスで「フルオーダー」を体感する

弊社のレーベルのスーツでは本日記載した仕立ての技法をふんだんに取り入れておりますので秋冬生地入荷のこのタイミングに是非とも素敵な1着をご相談下さいませ。

オーダースーツ専門店 サルトクレイス

田原

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