着用5年のスーツ

しばらくブログを更新できておりませんでした。申し訳ございません。
何について書こうと考えた時着ているスーツが着始めてちょうど5年であることに気づきました(正確には5年と1週間)。周年の中でも1年、3年、5年、10年などは特別である気がします。気のせいでしょうか。
お付き合いいただければと思います。
Kynoch(カイノック)のHeritage Twist(ヘリテージツイスト)
サルトクレイスに入社して間もない頃に作った一着でした。インポートの生地から選びたい、ガシッとした「ザ・英国」的な生地を選びたいなどと考えていたように思います。そんな中FOX BROTHERSのフランネルなどで制作していない辺り逆張りの精神が垣間見えます。
395g/mのこの生地は肉厚でややドライな肌触り。しっかりと質感でありながらKynochのページにはMID WEIGHT(ミッドウエイト)とあるので驚きです。確かにフランネルやツイードと比べると防寒性はやや劣るものの春秋でも着られるので着ている期間は長いように感じます。低番手の糸を経緯共に2本(多分)ずつ打ち込んでいる平織り生地は優れた耐久性を発揮します。ウエイトはあるのに微妙に光を通すのがまた面白いです。
クセのあるスリーピーススーツ
重さのある生地でクラシカルなグレンプレイド、控えめな光沢に杢グレーとどちらかといえば土臭い生地ですが、クセのある一着となっています。
特徴的なのが大きく開いたフロントカット。モーニングを想起させます。野暮ったい生地であるためある種バランスが取れているのかもしれません。お世辞にも洗練されているわけではない、しかし野暮ったいわけでも普遍的でもない奇妙なスーツです。
ただ、困ったことにベストを着ないとしっくりと来ないのが難点です。ツーピースの合わせが悪いわけでもなくジャケパンで合わせると否定されるわけでもないのですが、スリーピースを越すことができないです(元より全てのスリーピーススーツがそうかもしれないが)。まだまだこのスーツの可能性と向き合えると捉えることします。
お直し歴
注文時の仕様書を見るまでもなく、直した箇所が思い出されます。とは言っても体型の変化に応じた直しはしておらず、仕様の変更が主です。
- サイドベンツ→ノーベントに
- 生地くるみ釦→水牛釦に
- 裾ダブル→シングル
- サスペンダーでの着用
サイドベンツ→ノーベントに
当時はこれから自分が着るスーツは全てサイドベンツにする方針でした。しかし、ドアノブに引っ掛けて以降かノーベント採用する傾向に。その過程でこのジャケットもノーベントにしました。ベントの仕様変更は原則閉じるのみですが雰囲気を大きく変えることができます。よりモーニングっぽくなる結果となりました。

ベントを閉じる際にミスがありそれをそのまま放置状態
生地くるみ釦→水牛釦に
生地くるみ釦はグレンプレイドの柄であることも含めて唯一無二の雰囲気を持っていました。とてもかわいらしく・・・、かわいさはいらないなという思いとくるみ釦が足つきであることが決定打に。本切羽があまり好きではないため開き見せにしていました。本切羽であればもう少し気にならなかったでしょう・・・。
ちょうど気に入った水牛釦を見つけたので付け替えました。釦の細工をする工房の廃業で手に入らなっていくと言われた釦です。数が確保できないので店で取り扱うのには向いていません。マットな質感とほんの少し特徴のある形が気に入りこの水牛釦に。
くるみ釦と比べると没個性的ではありますが今後の人生で同じ釦をしたスーツ、ジャケットを見ることがあるかどうか。密かな楽しみです。
裾ダブル→シングルに
最初カブラ巾4.5cmのダブルで仕上げ、今現在シングルの裾です。ですが、間にシングル→ダブル→を挟んでいます。トータルで見るとシングルである期間が長いと思います。あまり推奨できないですが、ダブルの糸止めを外したり縫っているだけです。最初ダブルなのでシングルの裾でいるときには実はおかしい状態なんです。相引にステッチを入れているのもあって手を加えるのも面倒、見てわからないし、気にするとしても自分だけなので「まぁいいか」の精神です。
シングルにした理由は、
- 股下丈を長くしたかった
- ダブルの裾のほこり処理が面倒だった
の2点です。感じ取るトレンドの変化か自身の好みが顕在化したからか股下クッションがやや出るくらいの長さと裾巾にすることが増えました。当初ノークッションで履くバランスだった股下丈では物足りなくなりシングルに。
裾をダブルにする場合は糸止めとスナップボタン止めがありますが、シルエットがきれいなのは糸止め、折り返し部分に溜まるほこりの処理がしやすいのはスナップボタン止めです。面倒くさいのでシングルに。
サスペンダーでの着用
ベルトレスで履くことができるようにサイドアジャスターで仕立てました。ただ、サイドアジャスターで履く場合ウエストが大きかったのと股上が浅かったため気に入る着用感ではありませんでした。
※ヒップ周りに余裕を持たせたのでウエストのサイズ調整に限度があった。股上が浅いといっても世間一般でみると深め。
サスペンダーで履くと解決しました。最初はクリップ式でしたが、後に釦を取り付けより安定的に吊ることができるように。結果的にクリースやタックもよりきれいに出るようになりました。
お手入れ
あまりまめに手入れができているとは言えません。最近はブラッシングを心がけていますが一ヶ月に一度くらいの年もあったはずです。糸が飛び出ているのに気づいたときは必ず切らずに中に押し込むようにしています。
クリーニングには一度も出したことはありません。ジャケットとベストは一度も水洗いしたことありませんが、トラウザーズは洗濯機で水洗いをしたことがあるはず・・・(良くないです)。耐久性のある生地を選ぶ理由でもあり、それに甘えているのでしょう。
不定期ですがスチームを当てたり、ラペルの裏からアイロンを当てたりします。しかし、本当に気分です。ただ、立体的になったラペルを見ると心踊り、スッキリした(気のする)ジャケットに袖を通るのは気持ちがいいです。シャープになったクリースラインはたとえズレていようと引き締まります。事前にブラッシングを忘れずに(ついうっかり)。

面倒でも絶対に守っているのは風通しのいい(最低でも湿気のこもらない)環境と直射日光に当たらないということ。
経年変化
五年間着ているスーツですが、経年変化らしい経年変化はあまり感じません。仕上がった当初と比べると柔らかくなった気はしますが実際どうだろうか。とは言え今後も着用していく上で補修しないといけない箇所は出てきました。
表地より先に袖裏と裏地に目に見えるダメージが。何かしら補修をしてより愛着を持って行きたいと思います。

ボールペンで擦れた後が裏地に。決まった場所に挿すことが読み取れる

高めのアームホールのジャケットは脇下が擦れやすい。修理が真っ先に必要なポイントかも。
気を使い過ぎない
五年間シーズンになれば結構な登場頻度です。年末年始に催事をする際、一着だけで着回すことなった際にはこれを着ました。ダメージが蓄積しやすいのは承知の上でしたが、それでもなお(だがらこそ)これを着たかった。
気を使って着ると自然と手が伸びなくなるタイプなのでこれでヨシ!まだまだ愛用できそうだと思えました。
雑談‐漢検準一級‐
「釦」という漢字読めましたか?読めた方も書いたことはない人が多いのではないでしょうか。「ボタン」。業界では頻出する漢字ですが実は漢検準一級に登場する漢字です。つまり常用漢字ではないんです。他にも常用漢字ではない漢字は多くあります。もし見つけて読むこと、書くことができればほんの少し自分を褒めてみるのはいかがでしょうか。
サルトクレイス谷町本店 髙橋